B級彼女とS級彼氏

「で、何で今日も昼勤なのかな……」

 魔の連勤地獄を味わった後、その日は一日休みだったので翌日の夜までほぼ二日間の休みがあるのだと思っていた。なのにまた家の電話が鳴り響き、一日だけの束の間の休日となる。
 昼間に出たからと言って夜を誰かが代わりに出てくれるわけでもない。つまり、昼に出ると言う事は必然的に又連続勤務を味わう事にもなるのが決定した、と言う事だ。
 昼の勤務だと時給が下がるからこうも頻繁に入れられるのも困ったものだ。同じ時間を働いて居ると言うのに、手にする金額はかなり変わってくる。夜は夜で昼とは違う忙しさがあるものの、昼休みの時間帯に見る殺気立った客などはまず居ない。アレを思うと、昼勤務のバイトさんには本当に感心させられっぱなしだ。

「ねぇ、歩ちゃん」
「は、はい?」

 そして今日は輝ちゃんが入ってる日。
 前回、慎吾さんと二人で飲みに行った事をどうやって話せばいいのかと瞬時に頭を働かせてみたが、気のきいた言葉なんて一切浮んでこなかった。

「あの後は……」
「あ! え、ええ結局駅前のいつもの居酒屋さんしか開いて無くってそこに行ったんですよ! また慎吾さんに奢ってもらっちゃって……。いやぁー慎吾さんって相変わらず太っ腹ですよねー」

 ――だ、大丈夫かな? 私、普通に喋れてるだろうか……

「――そう」
「……」

 慎吾さんは男気があるって所を輝ちゃんにアピールしたつもりだったが、明らかにシュンっとなってしまった輝ちゃんを見ると、単に私が自慢しているように捉えられてしまったのだと気付いた。

「……あっ、今度は一緒に行きましょうね! 慎吾さんもそう言ってましたから!」
「ほんとに?」

 シュンッとしたかと思えば、他愛も無い一言でまたぱぁっと花を咲かせる。慎吾さんの発する一言一言が輝ちゃんにとってはとても大事なことなのだと、私にはその事がちょっぴり羨ましく思えた。
 自動ドアが開く音が聞こえ、私たち二人はそれに反応する。

「いらっしゃいま……」
「おっはよーう」
「慎吾さん!」

 ――こ、これはきっと、バッドタイミング!
 さっきの話を輝ちゃんが慎吾さんにしてしまったら、慎吾さんは会話の内容が見えなくてモロに顔に出すだろう。そうなる前に慎吾さんにどこかへ行ってもらう方法を……って、慎吾さんが手にしているそれはもしかして――。

「あ、歩ちゃん。この間借りたジャ――」
「ああああ!! 慎吾さん!? もうすぐ納品のトラックが来ると思うんで、ちょっと手伝って貰えません??」
「え? 一人で出来るでしょ?」
「いや、昼の納品はまだ慣れてないんです! 手違いがあったらあれなんで!」
「はぁ」
「ささ、とっとと外へ行きましょう! 輝ちゃん、ちょっと店番お願いします!」
「え?? う、うん?」

 私は慎吾さんの背中を両手で押しながら店の外へ出た。裏口がある付近まで慎吾さんを誘導すると、はーっと安堵の息を吐いた。

「なに? どうしたの?」
「いえ……何も」

 まさか、輝ちゃん本人を差し置いて勝手に輝ちゃんの気持ちを慎吾さんに打ち明けるわけにもいかず、ここは適当にごまかす事しか出来なかった。

「ん? 何か変だなぁ。――まっ、いいや。この間のジャージ、助かったよありがとうね」

 そう言って、私に見せるようにして紙製の手提げ袋の持ち手を広げて中に入っている小田桐の服を私に差し出した。

「ああ、いえ。こちらこそ本当に申し訳なく……。あ、慎吾さんの服は今クリーニングに出してますんで、もう少し待ってもらってもいいですか?」
「え? クリーニングなんて良かったのに。こんなに気を使わせてしまったんじゃ、やっぱりあの時無理して帰った方が良かったのかな」

 そもそも私がぶっ掛けたのが悪いのだと言うのに、慎吾さんはそれを責める事無くあの時の自分がした判断が間違っていたのだと言い張っている。たまに奇妙な行動や言動があったりもするが、本当に慎吾さんは人がいいのだなと思った。
 慎吾さんから紙袋を受け取ろうと手を伸ばした瞬間、

「おい、そこのゲロ女」
「っ!!」
「あ、あんた!!」

 ああ、よりにもよって何でいっつも慎吾さんがいる時にあらわれるんだろう。恐る恐る顔を上げると、そこにはやっぱりあの小田桐が私の方に睨みをきかせてドーンと立ちはだかっていた。
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