名前を教えてあげる。
ぱちり、と灯りが点けられた瞬間、美緒は目を見開いた。
「イヤッ!何コレ?すご〜い!かっこいい!」
思わず両手の手のひらを口に当てて叫んでしまった。
黒革の大きなソファにぴかぴかに光る黒の大理石のテーブル。部屋の奥には、家なのにバーカウンターまである。
黒を基調としたシンプルでモダンなインテリア。照明は読書には向かない前衛的な形のシャンデリアだ。
「うわあ!こんなおうち、初めて見た!芸能人とか住んでそう〜テレビ大〜きい!何インチ?100インチとか?」
嬉しい時の癖で美緒がぴょんぴょん飛び跳ねるのを、「美緒、転んだら危ねえし」と順が慌てて制止した。
「国際弁護士って、儲かるんだね…」
「まあ、ヒロは敏腕だからね。仕事は出来るけど、女関係はあの人全くダメ」
叔父なのに生意気な口をたたく順がおかしくて、美緒はケラケラ笑ってしまう。
憂鬱なことを忘れて、こんなに笑ったのは久しぶりだった。
「景色も抜群だよ。スカイツリー見えるんだ。来て!」
順が美緒の肩を押して窓際に移動する。
ボイルカーテンを少し開けると、冬の澄み切った空気に美しい都会の夜景が浮かび上がっていた。