名前を教えてあげる。
「うん、まあね、なんとかなってるよ」
順が頷くと、ヒロは、フウーンと鼻から息を吐きながら腕組みをして、椅子の背にもたれた。
目が座っていた。
順は、隣に座る美緒を肘で突ついて合図する。
「なに?」
「……お説教が始まるよ」
耳元で囁いた後、美緒の膝にいる恵理奈をひょいと抱き上げた。
「なあ、ヒロ、遠慮しないで、そろそろ抱っこしてみろよ」
話の矛先を変える魂胆がミエミエだった。それに美緒も加勢する。
「大丈夫かなあ?恵理奈、男の人苦手だから、泣くかも?
男の人イコールお医者さんだと思っちゃうみたい。ポリオの予防注射の時から、すっかりトラウマになってるの。
痛いことされちゃうって」
「だったら、なおさらいいよ。泣かれるのはごめんだ」
ヒロは苦笑いをしながら、右手をひらひらさせた。
「俺が抱くのは大人の女だけだ。20歳以下は興味ねえよ。苦手だ」
「なんだよー!ノリわりいな」
「それじゃ、ってことは私の事も苦手ってこと?18だもん」
美緒と順は同時にふくれっ面をした。
「順、ミョウ。真面目な話するぞ。
チャチャはナシだ。」
ヒロは脚を組み替え、顎に指を添えた。漆黒の瞳は一瞬、鋭い光を放ち、美緒と順は自然に姿勢を正した。