名前を教えてあげる。
熱狂的なファンたちが押し寄せるステージ前にはとても居られず、テーブルのある後方に逃げてきた。


「ホイ」


ふいに、飲み物が入ったグラスが美緒の目の前に差し出される。


「あ、哲平。ありがとう」


見上げるようにして、にっこりと微笑む。
人の熱気で、汗を掻いてしまい、喉が乾いていた。


一口飲んだ途端。

美緒はブッとその液体を吹いた。


「ヤダッ!これお酒じゃない!」


「何、お前、酒飲めねえの?」


ライブに合わせ、黒ずくめの服装をした哲平はーーーーぴっちりとしたパンツの足は、美緒の足よりも細いんじゃないかと思わせるーーーーさも可笑しそうに、肩をひくつかせた。


「てか、私まだじゅうはち…」


「シッ!」


哲平は、慌てて右手で美緒の口を覆った。
唇に熱い哲平の手のひらが触れ、美緒はどきりする。


「……そろそろ、ここは抜け出すか」


「うん…」


哲平の言葉に美緒は頷いた。
それは前からしていた約束だったかのように。







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