名前を教えてあげる。
「わあい、居酒屋デビューしちゃた〜すげ〜うまそう〜」
焼き鳥や刺身、シーザーサラダ、甘エビの唐揚げが並んだテーブルの前で美緒は子供のようにはしゃいだ。
目の前に座る哲平は、ビールのジョッキ片手に、面白いおもちゃを見るような目で美緒のすることを眺めている。
哲平は順とは違う。
美緒が初めて接する大人の男だった。
一緒にいると怖いことは何もない。
ライブハウスでも居酒屋でも臆することなく、身を置くことが出来た。
テーブルに肘を付き、焼き鳥を咀嚼しながら、美緒は順の母・春香がいかに嫌な女かということをしゃべり続けた。
「ウルババは、プリザーブなんとかっていうのを作る『シャンゼリゼの会』をやっているの。
シャンゼリゼって〜笑っちゃう名前でしょ?
初めてのお茶会でね、他のおばさんたちに私のこと『知り合いの娘さんなの』とか言っちゃってさ、しかも、ウエイトレス代わりにしたんだよ!
ずっと部屋の隅に立たされて足、パンパン!」
コーラしか飲んでいないのに、興奮するうちになんだか酔っ払っているような喋り方になってくる。