グッバイ・メロディー


「あー、腹減ってきた。おい寛人、そこのコンビニで肉まん買ってきてくんね?」

「は? なんでおれ? 無理」

「いーじゃん。釣りは全部やるから」

「無理」


目を合わせるどころか顔も上げないで、きょうも弟は圧倒的冷たさで兄に対応している。

こうちゃんはいつも通り、聞いているのか聞いていないのかもわからないような態度でずっと知らんぷりを決めこんでいる。


この光景にあのやわらかな微笑みが存在していないことは、さみしいというより、なんだかどうにもしっくりこない感じがした。

そう思ったらまたじんわり悲しくなってきてどうしようもない。


大親友の兄弟喧嘩は知らんぷりするくせに、幼なじみの情けない変化にはとても敏感なこうちゃんが、そっと顔を覗きこんできた。


「大丈夫」


それはどこからやってくるのってくらい自信満々に言うの。

こないだはあんなに落ち込んで、いっぱい甘えてきたくせにね。


でも、きっと本当に大丈夫だって思う。


こうちゃんがいつもの声で、いつもの顔で、当たり前みたいに言うから。

アキくんが余裕綽々に笑って、ヒロくんが退屈そうな目をして。


3人がこんなにも変わらないから、あとひとりも絶対そうだって、信じられるよ。

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