グッバイ・メロディー
いつもほとんど、こうちゃんといっしょにしか歩かないこの道。
ひとりでなぞっていくのはどうにもさみしいな。
こうちゃん、大丈夫かな。
アキくんもヒロくんも。
トシくんや脇坂さんには迷惑になっていないかな。
いろんな考えがぐるぐる頭をめぐるうちに、いつのまにか駆け足になっていた。
息が苦しい。
そういえばマラソンはぜんぜん得意じゃないんだったよ。
「おじゃましますっ」
いまどき自動じゃない、ドアノブのくっついた扉を引っぱって開けると、いきなり奥のほうからなにか言い争っているみたいな声が聞こえてきた。
もうすっかり聞き慣れている、兄弟の……兄のほうの、怒った声だ。
慌てて商品棚のあいだを縫って進む。
事件現場は、お行儀よくならんだギターたちが売られている、そのすぐ隣だった。
わたしに最初に気づいたのは幼なじみでなく、電話をくれた先輩だ。
ごめん、と小声で告げられたのにはふるふるとかぶりを振る。
「ご覧のとおりです」
そんな彼は心底あきれたみたいに言った。
部外者のような……というか、もはや部外者でありたいという感じの表情だ。
アキくんは、そりゃあもうものすごい剣幕で怒っていた。
「きょうも洸介んとこ帰るつもりかよ? いつまでもガキみたいなことしてんじゃねえぞ。聞いてんのか?」
聞く耳など持つつもりもなさそうな弟は、こうちゃんのうしろに隠れたままシカトを決めこんでいる。
かわりに怒号を一身に浴びているこうちゃんは、これまででいちばんというくらいの疲れきった顔を浮かべていた。