グッバイ・メロディー
「黙ってねえでなんとか言えよ」
営業時間中に店内で喧嘩をされているというのに、オーナーさんはレジカウンターのむこうでくつくつ笑いながら、おもしろそうにその様子を眺めているだけ。
ばちっと目が合うと、ひらひらと軽快に手を振られた。
脇坂さんもなかなか掴めない人だなあと思う。
できればそこで傍観してないでなんとかしてほしい、のだけど。
「おい、寛人っ……」
「アキ、もういい」
ついに声を荒げようとしたアキくんを、こうちゃんが静かに制止した。
「アキが冷静じゃないのにまともに話なんかできない」
「冷静になんかなれるわけねえだろ!」
バカにしてんだよ、
とイラついた声が静かに落ちて、ワックスのかかったつるつるの床に弾ける。
「こいつ、自分以外は全員バカだと思ってんだ」
スマホを持ったままのヒロくんの指先がぴくりと動いた。
「親も、兄貴も。コケにしてんだろ? 自分がいちばん賢いって本気で思ってんだろ」
こうちゃんがめずらしく本当に怖い顔をしてアキくんの肩を掴んだ。
もういい、というさっきと同じ言葉、それでも親友のもとには届かないみたい。
「自分は誰の力も借りずに生きていける特別なやつだって思ってんだろ? なあ、どうにか言えよ」
「アキ」
「ガキが勘違いしてんじゃねえぞ!」
本当に強い、怖い、太い声だった。
あまりの迫力にこうちゃんが眉をしかめ、目を細めて半歩あとずさる。
トシくんが庇ってくれるようにわたしの一歩前に出る。
脇坂さんはカウンターに肘をついて笑むと、のんきにジッポで煙草に火をつけた。