グッバイ・メロディー
⋆°。♬


ライブの日はいつもこうちゃんとは別行動になる。

夕方スタートだとしても、準備やらリハーサルやらがあって、わたしはそこにはついていくことができないから。


学校がある日でもわたしが起こすまで延々と寝ているくせに、こうちゃんってライブの朝だけはちゃんと目覚ましをかけてバッチリ自分で起きるの。

だったらいつもそうしてくれればいいのにって、毎回もやもやする。


でも、こうやってすねるのは、本当はただ、こうちゃんがわたし無しで起きてしまうのが寂しいだけなのかもしれない。


きょうもシッカリバッチリ目覚めたらしいこうちゃんは、ギターと機材を抱えたまま、朝からウチを訪ねてきた。


「起きたばっか?」


ねぼすけのこうちゃんにこんなことを言われてしまうなんて。


「ゆっくり来ていいよ」


ちょっと笑ったこうちゃんに今夜のチケットを手渡される。


これはもらえるわけじゃなく、こうちゃんの自腹だ。

ちゃんと自分で買うって言っているのに、いいって、ちっとも聞いてくれない。


「いってらっしゃい。がんばってね。楽しみにしてるね」

「うん、いってきます」


冬休みまっただ中とはいえ、せめてあと30分早起きすればよかったかな。

寝起きのボサボサ頭で見送ることになってしまった。
顔すら洗えていない。


ズボラすぎる自分に嫌気がさしながら自室に戻ると、スマホに1件メッセージが入っていた。

『ランチしない?』だけの、絵文字もスタンプもない簡素な文章。

あわてて準備をして駅へ向かった。


きっと1時間前、こうちゃんも歩いた道。

ベロア生地のショートブーツで、上からなぞっていく。

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