グッバイ・メロディー
「季沙ーっ」
駅前の時計台の下はいつも待ち合わせの人であふれていて、すぐに合致するのはなかなか至難のわざなのだけど、彼女とならそんな心配はまったくいらない。
「みちるちゃんっ、だから、声大きいってば!」
「だってこーでもしないと時間食うじゃない?」
小さな顔の真ん中で存在感を放っている、猫に似た大きな目が、いたずらっぽくきゅっと細くなった。
「モタモタしてるうちにかわいい季沙が変な男にナンパされたらどーすんの!」
指輪だらけの手が伸びてきて、左右から両頬をむぎゅっと挟まれる。
指先のスパンコールが視界の端でチカチカまたたいた。
「そんなことがあろうもんなら、あたしが洸介くんに怒られるんだよ?」
「なんでこうちゃんなの」
ほっぺたをしっかりホールドされているせいでぜんぜんうまくしゃべれない。
「ライブの日はどうしても自分はいっしょにいられないからって。季沙のこと、あたしが頼まれてんの」
ホントなのかウソなのかよくわからない口調で軽快にしゃべると、細い体にはあまりにブカブカのブルゾンを揺らし、赤いくちびるが「じゃあ行こう」と笑った。