グッバイ・メロディー
わたしはというと、あらかじめ瀬名家の冷蔵庫に移しておいたガトーショコラを取り出すのと、ついでにあったかいカフェオレをいれるためにキッチンへ。
それらを持って部屋に戻った2分後にこうちゃんが帰ってきたので笑ってしまった。
本当に、10分で戻ってきた。
「あ、ドライヤーしてないな!」
濡れた毛先をふるふると小さく揺らしながら、こうちゃんがかぶりを振る。
「すぐ乾くからいい」
「湯冷めしたら風邪ひいちゃうよ。ちょっと待ってて」
手のかかる幼なじみを持つと本当に大変。
わたしに対しては恥ずかしいくらい過保護なくせに、自分のこととなるといきなり超絶無頓着なの、もう16歳なんだからどうにかしてほしい。
わたしが脱衣所からドライヤーを持ってきている1分足らずのうちに、ガトーショコラに手をつけていたのにはあきれた。
本当にこういうところだ。
みんなからマイペースと言われる理由を、ちゃんと自覚しているかな。
「はーい乾かしていきまーす」
膝立ちになってうしろから熱風をあて、わしゃわしゃと髪を撫でる。
ふわふわな髪。
天パじゃないけど直毛でもない、不思議な性質の黒髪。
優しい手ざわりは、幼いころからずっと変わらないね。
ドライヤーをされながらだとさすがに食べづらかったのか、こうちゃんはフォークをお皿の上に投げ出すと、そのままわたしのぽよぽよのお腹にもたれかかってきた。
これじゃ髪が乾かせないし、2段腹がバレてしまう。
「疲れた」
ブーンとうるさい機械音にかき消されてしまったつぶやき、わたしにはちゃんと聴こえたよ。