私がいた場所。
やはり、私たちが天王山についたときには長州の残党は山頂で果てていた。
そして逃げ延びた者が市中に火を放ち、帰ったころにはすべて焼けていた。
原田さんの向かった公家御門でも数人はとり逃がしてしまったらしい。
斎藤さんのほうは会津藩と薩摩藩で手柄の取り合いがあり、双方を抑えるのが大変だったらしい。

歴史通りなんだけれどなんとも納得できないような結果になってしまって、合流してからもみんなは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。









「おかえり」
「沖田さん…ただいまです」
「疲れてるみたいだね」
重たげな足取りと表情からわかったのか沖田さんはそういうと私の頭をくしゃりと撫でた。髪の毛が…なんて反発しようとしないくらいには疲れているらしい。
「…散々でした」
沖田さんはその一言で察したのか、まぁ壬生狼だしね、といって私の頭から手をどけた。
「そうやってみんながなんで我慢しないといけないかわかんないです」
「どうしたの?なんだか今日は駄々っ子みたいだね」
むすっと口を引き結ぶと沖田さんは意外そうにいうものだからなんだかもっともやもやして。
「…すみません、部屋に戻ります」
「俺としては珍しい椿を見れてちょっとうれしかったわけだけど」
「泣きますよ?」
「まって、それはおかしい」
何故だか感情が高ぶって…高ぶりすぎて涙が出そう。
やっぱり私、疲れてる…。
ぽふっと音がして頬に軽い衝撃。
目の前に見えるのは沖田さんの着物で三拍くらいおいてからやっと状況が理解できた。
「泣かないでよ、困るし」
「すみません」
まだ泣いていなかったけど、今ので鼻の奥がつんとした。
私の頭を自分の胸に押し付けるようにしている彼の手が温かくて心地よくて私も背中に手を回した。
「…何もできなかったんです」
「うん」
「たらい回しにされてそれが悔しくて。逃げられて町も焼かれました…なのに私は何もできなくて…」
「うん」
もうしゃべれなくてただ小さく嗚咽だけを漏らす。
みんなが馬鹿にされていることもすべて知っていて知らない振りをする私自身も嫌で仕方ない。
沖田さんが空いた手でゆっくりと背中をさすってくれた。
「…部屋に行こうか」
「えっ…わ、きゃっ……!」
急にぱっと体を離されたかと思うと膝裏と背に手を回されてぐっと体が持ち上がって所謂お姫様抱っこをされた。思わず小さく悲鳴を上げてしまったことに恥ずかしくなったと同時に暴れようとすると沖田さんの顔が近づいた。
「暴れると落ちて怪我しちゃうよ」
「わ、わかりましたから、はやく中に入ってください!」
もうっ、と赤くなった顔を手で隠すと涙が止まっていることに気付いて少しだけ頬を緩めて彼に感謝した。



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