私がいた場所。




やっと床に足をついて沖田さんのほうに振り返ると今度は抱きつかれてまた視界が彼でいっぱいになった。
「沖田さん…?」
広い肩をとんとんとたたくともぞっと動いてから声が降ってきた。
「ごめん、さっきのは口実。ほんとは俺が椿と話したかった。椿がちゃんと帰ってきたって実感したかった」
首元にかかる息がくすぐったい。
さっきまでの堂々とした態度との差にびっくりしつつもおかしくて、可愛いと思えた。
「…はぁ、椿のにおいがする」
「ちょ、やめてください」
なかなか離れないと思っていたらそんなことをいうものだからぐいっと引き離す。
「もう…沖田さんてば」
「ごめんごめん」
あははと笑う彼を軽くにらむと降参というように両手を上げた。
「ねぇ、」
「はい?」
「返事、ちゃんと考えてくれてる?」
「っ…」
どきりとした。本当に急だったから、心臓が痛いくらいに跳ねた。
「今だって、俺の部屋に2人きりってことわかってる?」
「わかってます…」
「わかってないよ、さっき俺が抱きしめた時そのまま…ってこともあったんだからね」
「…沖田さんはそんなことしないです」
「するよ」
あまりにはっきりいうものだからふせていた顔を思わずあげた。目が合うとまた心臓がはねる。熱っぽい、憂いを含んだような、そんな目。
「俺のこと、信じすぎちゃだめだよ」
「そんなの……」
もう無理だってわかってるくせに…。








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