私がいた場所。
「それで、お前の話は?」
「…私を正式に隊士としてここにおいてもらえませんか?」
覚悟を見せるように土方さんをじっと見てずっと言おうと思っていたことを告げる。
「何言ってやがる、自分の身も守れねぇやつが」
「土方さんが大坂にいる間、護身術を平助さんに教えていただきました。それに、監察方に女手も欲しいとは思っていないのですか?」
監察方は商人や農民に化けて市中に忍び情報を集めて報告することが主な仕事だ。新選組は男しかいないから女手も欲しいだろう。女だったら茶屋で働くことにも違和感はないし、芸鼓に化けることもできる。実際に長州との関わりを持つ者の情報も女の武器を使えば口を割らせることだってできるだろう。
「本気でいってんのか?」
「はい。私もいい加減覚悟を決めたいんです」
少しの間、吸い込まれそうなほど深い土方さんの目と私の目が交わって、ついに土方さんは目を閉じてため息をついた。
「わかった。後で監察方の奴をお前のところに行かせる」
「ありがとうございます!」
土方さんから空になった湯飲みを受け取って立ち上がろうとしたところで止められる。
「正座して、背筋伸ばせ」
「え?…はい」
「本日より東條椿を監察方に任命する。…新選組のために動いてくれ」
はじめの言葉は新選組副長として、後の一言は土方さんとしての言葉だったのだろう。もちろんしっかり返事をして部屋を出た。
廊下を進む足は少しだけ重い気がする。これけらは雑用ではなく一隊士としてここにいることになるのだからきっと私の行動全てが今までより重くなるのだろう。それでも私は足を止めない。覚悟を決めたから。

新選組の一部として、誠の旗に誓って私はこの、動乱の幕末を進んでいく。





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