私がいた場所。
「どうしてですか?」
「私は大坂で山南さんが重傷を負ってしまうことを知っていました」
「っ…」
山南さんが息を飲んだのが聞こえて、つきんと胸がいたんだ。
「知っていたからなんだというのです」
「え、」
「歴史を変えてしまうことが言えなくてあなたが苦しんだのは分かっています。あなたがよく私と話すときに腕を見ていたのも気づいていました。いつなのかは分かりませんでしたが、覚悟はしていたつもりです。…しかし実際なってみると想像以上に辛いものですね」
「そんなっ…山南さん、もっと私を責めてください、私は山南さんをっ…」
「顔をあげてください。私はあなたを怒ってなどいません。自分の無力さに嫌気がさしているだけです」
「山南さんは無力なんかじゃありません!」
「それでも…剣客としては死んでしまった」
山南さんの声は静かに、ただ静かにゆっくりと部屋に響いた。
あぁ、やっぱり無力なのは私だ。
何も、できない。私ごときでは彼の心の闇をとることなどできないのだ。
「久しぶりに話ができて楽しかったです。また来てくれますか?」
「もちろんです。だから山南さんも、もっといろんなことを前向きに考えてくださいね。皆は山南さんを必要としていますから…」
「…善処しましょう」
無理矢理に笑った山南さんを見て鼻の奥がつんとする。でも、後悔はできない。これは歴史の一部で、私も前を見ることしかできないのだ。
彼がもっと非道な人ならばなにも思うことはなかったのに。どこまでも、優しい、悲しい人なんだ。





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