不機嫌な彼のカミナリ注意報
『私、本当に好かれてるのか自信がないの。一度も言ってくれないってことは、きっと好かれてないんだと思う』

 紘美は素直な女だから、俺の“口癖”をいちいち真に受けていた。
 言葉でなにも表現しない俺は彼女をずっと不安にさせていたし、その口癖が原因で少なからず心に傷を負わせていたのだと、ずいぶん時間が経ってからわかった。

 そして、本社に戻ることが決まっている俺とは今までみたいに毎日会えなくなるから、これを機に恋人関係を解消したいと紘美から告げられた。
 要するに俺のこの性格が原因で、愛想をつかされたのだ。

 あの時、紘美をこの胸に抱きしめ、『俺は紘美が好きだ。これからは改善するから』と言って、彼女の心にある不安を取り除いてやればやり直せただろうか。

 いや……おそらくダメだったと思う。
 仕事人間な俺が、紘美が望むような中距離恋愛ができるとは思えない。

 その証拠に俺は本社に戻ってから二年間、毎日ずっと仕事漬けだ。

 社内の女に付き合ってくれと突然言われることはたまにあるが、そんなものはもちろん無視で、恋愛からは遠ざかっている。

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