明日も晴れ
1. 夏休み、彼と帰りに

「花火、観に行こう」



不意打ち的な言葉が生んだのは、驚きと戸惑いとツッコミたくなる気持ち。



『人話すときは相手の目を見て話すものだ』と、小さい時に母親に教わらなかったのか。



当の本人、今泉蓮(いまいずみれん)は澄ました顔で空を見上げてる。



言ったことさえ忘れてるような惚けた顔。いや、あの涼しい顔は絶対に忘れてる。きゅっと口角が上向きになって、青い空へと近づいてく。




「うん、明日も晴れそうだ。きっと晴れる」



今泉君の畳み掛けるような口調に、私は唇を噛んだ。頑として、私に話す隙を与えないつもりらしい。



しかも私の方なんて、ちらりとも見やしない。ほんの少し首を左に捻ればいいだけなのに、今泉君の視線の先には雲ひとつない青い空。



ああ、憎ったらしい。
今泉君の視線を追って、空を仰いだ。










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