美狐はベッドの上で愛をささやく

階段を上りきると、ふたつ並んだ部屋があって、手前の部屋がわたしの寝室だ。


そっと襖を開けて部屋の中へ入る。


畳8畳分の部屋にあるのは、勉強机だけ……。


本来あるだろうベッドも、布団もない。


眠れる何かがあれば、きっと、わたしは欲に負けてしまう。

わたしは……けっして寝ることを許されない。



眠れば、意識を失ったわたしを、彼らは狙うから……。



わたしが父に言って、何もかもを無くすようにお願いしたんだ。











……ぴちゃり。


……ぴちゃり。


静かな部屋で、ひとり佇(タタズ)んでいると、不意に遠くから、水に濡れたような足音が聞こえた。


その足音は、少しずつ近づいてきている。


わたしの魂を狙う霊体たちだ。




わたしは、これから自分に降りかかる出来事に耐えるため、ぎゅっと唇を噛みしめた。


……また恐怖に包まれた眠れない日々を暮らすんだと覚悟して……。


< 26 / 396 >

この作品をシェア

pagetop