美狐はベッドの上で愛をささやく

そういうことを考えている今も、こっちに向かって来る、水を含んだ足音は止まない。



気を失っちゃだめ。

気を失っちゃだめ。



わたしは、その場に立ったまま、自分に言い聞かせる。



逃げても無駄な事は知っている。

『彼ら』はどこにだって出現する。

逃げれば逃げるほど、恐怖に包まれるだけ……。

それに、この場所から逃げ出して助けを呼べば、その人もわたしの餌食になって命を落とす危険性がある。


だったら……。

わたしはここにいて、誰にも迷惑をかけないようにするしかない。



たとえ、身のすくむような恐ろしい出来事が待ち構えていたとしても……。



わたしは入り口の襖に目を向けて、ジッと朝が来るのを待つ。


目をつむっても結果は同じ。

彼らは瞼(マブタ)の裏に現れる。



逃げようにも逃げられない。


耳を澄ませば、やって来る濡れた足音は止まり、周囲は虫の鳴き声すらしないことに気がついた。


< 27 / 396 >

この作品をシェア

pagetop