美狐はベッドの上で愛をささやく
「残念だったな、妖(アヤカシ)の傍はうんざりだとさ」
今まで微笑みばかりを浮かべていた倉橋さんは、口の端をつり上げて笑う。
倉橋さんの言葉を合図に、わたしは目を閉じて、ふたたび意識を手放した。
ばいばい、今までありがとう。
紅さんのこと、忘れないから……。
どこに行っても、ずっとずっと、だいすき。
「紗良!!」
遠くで、わたしを呼ぶ紅さんの声がする。
その声を子守唄みたいにして、わたしは奥深くへと意識を潜らせていく……。
そうしたら、わたしの体が軽くなった。
それは、わたしの魂が体から抜けたという証拠……。
だけどね、変なんだよ?
紅さんとお別れなのに、全然悲しくないの。
逆に、紅さんはやっとわたしから解放されるっていうことが、とてもとても嬉しいんだ。
紅さんには……好きな人には幸せになってほしい。
わたしといれば、幸福とはほど遠い苦しみを味わうでしょう?