美狐はベッドの上で愛をささやく
漆黒の煙のようなものがふたたび倉橋さんを覆いはじめ、みるみるうちに、フード姿の『それ』に戻ってしまった。
「俺の魂だ……」
漆黒の鈍い光が倉橋さんの体を包み終えると、わたしの首に向かって手が伸びてきた。
「……ぁ、っぐ……」
強い力で、わたしの首が絞められる。
苦しい。
……息、できない。
にやりと笑う裂けた口からは、鋭い犬歯が覗く。
――これでわたしは死ぬ。
すべてを理解したわたしは目を閉ざし、死を受け入れた。
「いいや、紗良はわたしの妻だ」
絶望が洞窟内を支配する中、紅さんの静かな声が響いた。
――えっ?
びっくりして閉じた目をまた開ければ、そこには、紅さんの妖力と同じ色をした羽衣が、倉橋さんを包み込もうと、背後で広がっている光景が見えた……。
綺麗な赤い光が羽衣を包んでいたから、それは紅さんが放ったものなのだとすぐにわかった。