Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編





桃花をホテルに連れ込んで8日目の朝。桃花が寝入っているのを確認し、桂木に連絡を取った。


『また好きにしてくれたものだね、王子様は』


棘のある言い方をされるのも仕方ない、と彼の嫌味を受けとめる。個人的な事情でいち従業員を1週間もホテルに閉じ込め、好き勝手にしていたのだから。

とはいえ、本部から特別にヘルプが入り桃花の代わりを務めていたから、店舗運営について問題はない。むしろ桂木が非難したいのは、立場を利用して桃花を拐ったことだろう。


「ああ、身勝手な王子だ私は。だから、欲しいものを手に入れたかっただけだ。たとえ暁――おまえがどれだけ桃花を好きでも、私は決して彼女を渡さない。必ず桃花はヴァルヌスに来る……今は、そう確信している」

『……』


いつになくハッキリと言い切ったからだろうか。桂木は押し黙り、沈黙の時間が訪れる。今はマンションにいるのか、小さく藤沢の声が聞こえた。 おそらく、彼女が朝食の用意をしているのだろう。


桂木自身、藤沢からの想いに気づいているはずだ。彼女は桃花と違い、ストレートに好意を表す。いつまでも避けられるはずもない。 それを含めて、私は彼に言う。


「いつまでも逃げてはいられない。わかってるだろう、暁。私はきちんと桃花へ気持ちを伝える。曖昧にしても、ずるずると引きずって相手を傷つけるだけだ」

『……わかってる。僕の本当の気持ちを、ちゃんと伝えるよ。藤沢さんにも。彼女にも』

「ああ、それがいい……しかし、卑怯な手段だけは使わないでくれ」

『……わかってる』


正直な話、桃花への告白など容認などしたくない。だが、一方的にだめだと否定するのは卑怯だろう。気持ちに折り合いをつけるため、桂木にも決着をつけるチャンスくらいは必要だろう。


ため息をつきながら電話を切り、迎えが来るまで桃花の寝顔を眺めた。


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