Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編
逢えない時には





何も言わずに姿を消した私を、桃花は恨むだろうか? 弄ばれたと悲しむかもしれない。

けれど、それでも希望を失うな、と願う私は身勝手な男だろう。いつもいつも言葉が足りずに、すれ違ってばかりはいたが。


『マリア、帰国前に一度だけ桃花と逢えるよう取り計らってくれないか』


大使館へと戻り近くの豪奢なホテルに滞在しながら、外交や外商など本来の仕事に忙殺される中で。やはり、言葉が足りなかったかと思い至る。 それから何とか時間を捻出し、幼なじみのマリアへ電話で頼み込んだ。


『あら、逢うだけで済むのかしら? わたくしが1日空けさせても良いのだけど』


幼なじみはクスクス笑いながら、歌うように綺麗な声で恐ろしいことを言う。全てを解りきっている彼女は、その声一つで私のスケジュールをどうこうできる力と利発さがある。狡猾な雅幸(本物)の、婚約者だけはある。


「いや、数分逢えるだけで構わない。帰国前にどうしても伝えたいことがあるんだ」


そう、やはり私は伝えるべきだ。桃花の気持ちもハッキリと知りたいが、まずは自分の気持ちを。そんな基本的なことすら省くようでは、ただの傲慢かヘタレだ。


『わかったわ、何とかわたくしの方で桃花が言いやすいようにしておく。だから、死ぬ気で仕事を終わらせなさい』


冗談にしてもタチが悪い言い方で、マリアは牽制を忘れていなかった。この幼なじみは私が本気かどうかを見極めて、逢わせるかどうかを決めると言っているのだ。


「ああ、わかってる」


それくらい、何でもない。桃花と別れて7日目の朝に、そう決意した。


< 139 / 391 >

この作品をシェア

pagetop