さくらへようこそ
美桜はしゃべり過ぎた喉を潤すようにハイボールを口に含んだ。

「調理師の専門学校に進学して、調理師の免許を習得した。

小料理屋で勉強も兼ねて1年働いて、2年前にようやくこの店を再開したわ。

ずいぶんと時間はかかってしまったけどね」

「さくらさん、頑張ったんですね」

そう言った輝に、
「私を自分の娘として育ててくれた、ママへのせめてもの恩返しよ」

美桜は返した。

「あれ?

雨、止みましたね」

輝が気づいた。

彼の言う通り、それまで店内に響いていた雨の音がもう聞こえなくなっていた。

「通り雨だったみたいね」

美桜は呟くように言うと、ハイボールを飲んだ。
< 55 / 167 >

この作品をシェア

pagetop