さくらへようこそ
「お酒は熱燗で、菜の花の味噌和えと…」

新鮮な鰆を手に入れた美桜が自転車置き場に向かうと、
「ちょっとすみません」

誰かに呼び止められた。

声の主の方へ振り返ると、着物を着た背の高い黒髪の男だった。

前髪が長いせいで、左目が隠れている。

「はい」

美桜は首を傾げた。

「その鰆、僕に譲ってもらえませんか?」

男が唇を開いたと思ったら、そんなことを言った。

「えっ?」

美桜は聞き返した。

(どうしてこの人に鰆を譲らないといけないのかしら?)
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