Baby I love you !!
決意
次の日。一睡も出来ぬまま朝を迎えた私は仕事を休み、病院に行くことにした。
こんな状況で出勤したところで、笑顔で丁寧な接客なんて、出来るはずもない。
電車に乗り、向かったのは個人経営の小さなクリニック。前に一度、貧血で倒れたときにきたことがある。
消毒液の匂いと、赤ちゃんの泣き声。お腹の大きな妊婦さんに囲まれながら順番を待った。
ネットによると検査薬の当たる確率はほぼ100%らしいけど、もしかして…私は、そんな期待をしていた。
「おめでとうございます。」
けれど、僅かな期待は儚く散った。尿検査と内診の結果は昨日と同じだった。
「8週目、妊娠二ヶ月目ですね。えーっと…予定日は来年の五月かな。」
まるで保健室の先生のような、優しそうな先生がご丁寧に説明してくれた。だけど正直、ほとんど頭に入ってこなかった。
私はこれからどうすればいいんだろう…。
ここにきたことで現実味が増し、私の胸は不安で押し潰されそうになっていた。
「矢沢さんは独身…でしたね。お相手の方には、きちんと話せそう?」
そんな私の様子を察した先生が、穏やかな声で尋ねてきた。
「…わかりません。」
情けないけど、ちゃんと言える自信がない。
「はい、これ見て。」
ただ呆然としている私に、先生が見せてくれたのは、ドラマとかでよく見る白黒のエコー写真。まさか自分がこんなにも早く、目にする日がくるとは。
「これが赤ちゃんです。」
そこに写っていたのは、5mmくらいの小さな小さな白い点。先生はそこを指差している。これが、赤ちゃん…?
「まだこんなに小さいけど、一生懸命生きてます。お二人でしっかり考えてあげてくださいね。」
私の目を、真っ直ぐに見つめる先生の言葉が胸に突き刺さった。
" 一生懸命、生きてる。 "
そう思った瞬間、急に胸が熱くなった。
「はい。」
私は涙声で返事をして、診察室を出た。
その日の夜。私は、エコー写真を見つめた。これが、赤ちゃんだなんて言われたって全然実感は湧かないし、頭の中は不安でいっぱい。
そっと、自分のお腹に手を当ててみた。まだ何の反応もない。でも、心なしかじんわりと暖かいものを感じた。
「ちゃんと、しなきゃね。」
ちゃんと、ナルに話そう。
酔った勢いなんていうのは、大人の勝手な事情であって、この子には何の罪もない。この子はただ、小さな体で一生懸命生きてるだけなんだ。
そう思ったら急に、お腹の中の小さな命が愛しくてたまらなくなった。気付いたら、頬が涙で濡れていた。
そして、私は決めた。この子を産む。ナルが何と言おうと、例え1人になったとしても。
この子を失いたくい。父親が誰であろうと、私の子。この子に会いたい。心からそう思っていた。