恋色カフェ SS集
「お疲れー。戸締りは高宮さんにまかせてもいいのかな?」
「ああ、はい。お疲れ様でした」
いつも最後まで残っているキッチンの片づけ当番も上がってしまった。
「……私も、帰ろうかな」
私はバッグからチョコレートの包みを取り出した。
店長の喜ぶ顔が見たかっただけなのに。それすら叶わないなんて。
店長のデスクに近づき、二段目の引き出しを開けた。いくつかの書類が入っていたけど、これが入るぐらいの余裕はある。
トリュフの箱を入れて引き出しを閉じると、何だか泣きそうになった。
仕事が忙しいことは、傍目で見ているからよくわかっている。わがままなんて言える筈がない。
「……寂しい」
だから今だけ。ここでわがままを言うことは赦して。
「……話したい」
私は窓の方を向いた。外は寒そうだ。
寒いと、余計に温もりが欲しくなる。
「触れたい……煕さん」
――と、ふいに足音がして、私は後ろから誰かに抱きしめられた。
ふわりと香ったのは、チョコレートの甘い香り。