西暦2308年
今となると、幸せでいたいのならその方がよかった、だけどそのままだったら、やっぱり後悔してたかもしれないな、と思う。
…………そのまま、父さんにしがみついていたら………今、僕はどれだけ楽だったんだろう。
そのまま僕から離れて寝室へ僕を押しやった父さんは、母さんと何か言い争いをして寝てしまったようだった。
その夜、夢を見た。
街が真っ赤な炎で燃えて、人々が苦しんで、逃げ惑っていた。
それなのに、自分は無傷だ。
燃えている家の中から助けを求める声が聞こえる。
だから、僕はその中に入って苦しむ人に手を伸ばそうとした。
「揚羽!」
腕をがっちりと掴まれて、淡い水色の髪の毛をポニーテールに束ねた女の子に引っ張られる。
あそこに苦しんでる人がいるのに。みんな、泣いてるのに…。
「離してよ!助けなきゃ!」
「今のお前に何が出来る!いいから来るんだ!」
誰だろう、この子…。僕と同じ様に、煤だらけになって街を慣れたように走ってるってことはこの街の子なのかな。
走ってても、視界の両端に嘆く人やそのまま炎に突っ込んで自殺しようとする人、とにかく逃げ惑っている人が写って、犯罪も災害もない絶対安全な世界という国連の宣言からは遠い現実が広がっている。
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