西暦2308年

それなのに、この子は助けさせてくれない。

何度も、何度も人々と目が合う。

その度に、縋るような瞳で見つめてくる。


その瞳にこの子は気付かないんだろうか。僕を引いて走り続ける。






市街を抜けて、学校を通りすぎ、隣街に向かう一本道をひたすら走った。

目はすっかり乾いて、喉も苦しいし、靴を履いてない足は傷だらけになってくる。



それなのに、この子は走った。


そして僕は気付いた。
足に傷が痛くて…燃え盛る炎が熱い。




これは、夢なんかじゃないんだ。


父さん、さよならってこういうこと?
なんで、なんでこんなことになったの?




父さんと母さんは………何処…?



「ッ…!!!」


引っ張られていた手を振り払い、今まで走ってきた道を戻り出す。

でも、あの子は追い掛けてこない。

もしかして、父さんと母さんに頼まれて、僕を連れ出してくれたのかな?

それとも……何か理由があったのかな?



とにかく今はそれ所じゃない。
こんな炎だし、今まで見捨ててきた人々を見ると生きている保証なんてないけれど、でも、それでも………。


急に現実が押し寄せてくる。
あんなに軽々と走ってここまで来たのに、気付いてしまった僕にはこの道を帰るのはつらすぎる。


あの子……そうだあの子…!

振り返ってみても、いない。


「揚羽。」


そしたら前から僕の名前を呼ぶ人がいて、前を向いたらあの子がいた。

少し微笑んで、僕の手を握るとゆっくりと口を開いた。







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