強引上司のターゲット
何事もなかったかのようにあたしから距離を取ると、「行くよ?」と、これまた何もなかったかのように乗り込んだ。

思考回路が上手く働かない状態であたしも慌てて乗り込んで1Fのボタンを押す。

なんだ…?
今のなんだ?
眉間に皺が寄っていることを自覚しながらも、今のやりとりを思い返そうするけど、それすらできない。






「…瑞花」






一瞬…時間が止まった。
ハッとしてブンと振り返ると、エレベーターの中にはあたしと課長の二人だけだったことに今更気付く。

今…
名前、呼んだ。

この閉ざされた空間で、手を伸ばせば届きそうな距離にいる。
けどなんでだろう。
緊張とか怖さなんて全くない。


さっきよりもすんなり伸びてきた課長の手は、あたしの髪を後ろに流し始める。

え…なに…
さっきっから、なんなんだろう。
課長は、なんなんだろう。
課長…よく分かんない。
でも、不思議と嫌悪感はない。


そして課長の指が、あたしの首に触れた。
触られただけでわかるそこは、黒子が五つ、集まっている場所。
べつに今更どうとかないけど、なぜかここにだけ黒子が集まってるのを恥ずかしく思った時期もあったし、こうやって改めて見られるのは恥ずかしすぎる。

でも

懐かしそうに微笑んであたしの黒子を撫でる課長に、息が止まりそうなほどドキドキする。
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