不機嫌主任の溺愛宣言
けれど、その名前を耳にした途端、ヘラヘラしていた加賀の顔が妙に曇る。
「ああー……姫崎さんねえ。あの子は仕事はまあいいんだけど……」
歯切れの悪い物言いに、忠臣がイラつきを露にした。
「なんだ。はっきり言え。まさか今さら問題のある人材だったとか言うんじゃあるまいな」
「いえ、決してそんなんじゃなく。ただ……ちょっとね、男クセが悪いというか」
「男クセ?姫崎一華が?」
加賀の暴露に忠臣は耳を疑う。もし、昨日までの――あの修羅場を見ていない忠臣だったなら容易く信じただろうし、それ以前に興味すらなかったかも知れない。けれど、恋愛のいちゃもんをあれだけ毅然と突っぱねた姿を見た後では俄かに信じ難かった。
「あっちこっちにイイ顔しては引っ掻き回したりね。男をその気にさせてポイ捨てしたり、彼女がいる男に手を出してカップルを別れさせたり。美人だからちょっと調子に乗っちゃってんのかなあ。仕事は出来るのにそういうトラブル多くて長続きしないんですよお」
昨日の一華の主張と180度違っている加賀の言い分に、忠臣は混乱するほどの違和感を覚える。
一華と加賀、付き合いが長いのは当然加賀の方だ。一華に関してはまだまともに話しすらした事も無い。接触や時間が信頼に結びつくというのなら、忠臣が信じるべきは加賀の話の方だろう。
――……昨日は随分と立派な事を言っていたが、結局は姫崎一華もくだらない“女”って事か。
“女”の言ってる事とやってる事が一環してないなんてのは、よくある事だ。
そう考えて忠臣は静かに息を吐き出し「そう言えば契約更新の書類の件だけど――」話題を変えて早々にくだらない話を断ち切った。