不機嫌主任の溺愛宣言

「さあ、手を」

まるで従者のような忠臣に手を引かれ、花を除けて出来た道を進めばいつもの一華専用のクッションが置かれたソファーに辿り着く。目の前のテーブルにはワインのボトル。1991年製……一華の生まれた年のラベルが貼られていた。

甘いものが苦手な一華のために用意されたブルゴーニュのフルボディ。そして共に出されたオードブルはチーズやテリーヌを乗せたバゲットに、クレソンと温野菜を彩りよく添えたミートローフが乗せられていた。そっと置かれた皿を見て、一華が目をしばたかせ顔を上げる。

「もしかして……忠臣さんが作ったんですか?」

「……こう見えて料理は結構するんだ」

ワインの栓をオープナーで抜きながら、恥ずかしそうに答えて忠臣は目を伏せた。彼の意外な一面と照れた表情が可愛くて、一華は思わず目を細める。

そして。

「24歳の誕生日おめでとう、一華」

「どうもありがとう、忠臣さん」

祝福と共にグラスを触れ合わせると、ふたりの顔は最高の幸福に綻んだのであった。

今まで家族に、時に恋人に祝ってもらってきた誕生日だったけれど、これほどまでに一途な愛を感じられる祝福は初めてだと、一華は静かに胸を熱くした。

彼女の好きなクレマチスで彩られた空間。彼女のために用意されたビンテージワイン。そして彼女のために作られた料理。どれも忠臣ならではの精一杯の祝福だろう。

そして、ワイングラスを置いた一華の手を、忠臣はそっと握る。

「一華……君の誕生日に立ち会えた事を、俺は幸せに思う。君の生まれた日に感謝し、そして……どうか来年もこれからもずっと、同じ幸せを迎えたい」

切れ長の瞳でまっすぐ一華を見つめ告げると、忠臣は握っていた白い手にそっと金属の輪を通す。それは――彼が悩みに悩んで選んだ彼女へのプレゼントは――

「これからも君と共に、時を刻めるように」

可憐なピンクゴールドに煌く、細身のバングルウォッチだった。
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