不機嫌主任の溺愛宣言

(3)


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大事なデートを中止にしてまで駆けつけたおかげで、看板のトラブルは最小限の変更と予算に抑えられた。そうして安堵する間もなく、福見屋デパート地下食品街は半年に一度の大イベント『日本全国・大物産展』をいよいよ迎えたのであった。

6月に2週間かけて行われるそれは福見屋デパートにとっても大きな期待が掛かるイベントであり、現場責任者として忠臣に掛かるプレッシャーは容易なものではない。

しかし。例年の日本全国による名物商品だけでなく、今年より取り入れた地下食品街の店舗に地域限定商品を加え参加させると云う忠臣の発案が功をそうし、物産展は昨年を大きく上回る来客数と売り上げを見せたのであった。


「やりましたね。店舗の地域限定商品のおかげで若いお客さんが飛躍的に増えましたもんね。ふふふ、きっと本部の査定にも大きく影響しますよ」

物産展が終わり、本部への報告会議を済ませた帰り道で、右近は何回も肩を竦め嬉しそうに笑いながら忠臣に話しかけた。

本部長が忠臣の発案にあまりイイ顔をしなかった事は右近も知っている。おまけに何故だか途中で目標数値まで上げられ、気の若い右近としては明らかな反骨心を本部に対して燃やしていたのだ。

それが見事一矢報いてやれたのだから、彼としては上機嫌なことこの上ない。けれど、1番の功労者である筈の上司の顔があまり晴れていない事が右近はどうにも気になる。

「どうしたんですか、主任?肩の荷が降りたせいで疲れでも出ちゃいましたか?」

駅に付きふたり颯爽と人混みを歩きながら右近が尋ねる。すると忠臣は

「まあ……そんなところだ」

改札にパスケースを滑らせながら前を向いたまま、どこか心ここに在らずと言った様子で答えた。

「じゃあ今夜は祝杯上げに行きましょうよ。めでたいお酒飲んで、明日からの鋭気を養わなくっちゃ」

右近の誘いはありがたい。いつもなら忠臣は快く頷くはずだった。けれど。

「すまない。今日はちょっと予定があってな。また来週にでも行こう」

物産展の肩の荷が降りた今、彼はもうひとつの大切な案件に向き合わねばならないのだ。

「なーんだ、残念。じゃあ是非来週に」

「すまないな」

そう。前園忠臣にはこれから『途中中止したデートの埋め合わせをする』と云う重大な任務が待っているのだった。
 
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