不機嫌主任の溺愛宣言

時間は夜8時。丸の内本部での会議から直帰した事で、普段より早く仕事からあがれた。そして忠臣は一華と待ち合わせをした赤羽駅で電車を降りる。

人でごった返す駅の入り口に一華の姿を見つけ忠臣は小走りで駆け寄ると声を掛けた。

「すまない、待たせたか」

「主任、お疲れ様です。時間はピッタリなので全然待ってませんよ」

そう返して軽く微笑んだ一華の姿に、忠臣は今日の仕事の疲れなど一瞬で吹き飛んだような幸福感を得るのであった。


前回『デートはいつでも出来ますから』と言ってはもらえたものの、次のデートの具体的な約束はしていなかった事に、先日忠臣は気付いた。

もう1度プランを練り直し彼女を誘いなおす必要がある。けれど、やっとひとつの重責から解放された今日、忠臣は一刻も早く一華と恋人としての時間を取り戻したいと思ったのだ。

昨日の通勤途中の車内で、恐る恐るそう打診してみると、『いいですよ』と快い返事がかえってきて忠臣は安心する。

そうして本部報告まで終えた今日、忠臣は前回行けなかった鉄板焼きの店に改めて予約を入れ、今度こそ一華とふたりで楽しいディナータイムを迎えようと意気込んでいたのであった。


***


「物産展、お疲れ様でした」

「君もいつもより随分忙しかっただろう。頑張ってくれて感謝している」

そんなお互いを労う言葉で乾杯を交わし、始まった食事。ライトな口当たりの赤ワインがふたりの会話を流暢なものにしてくれる。

マリネやパテなどの前菜に始まり、目の前で焼かれる野菜に海老や帆立。そしてお目当ての黒毛和牛のステーキを口にして、一華の愛らしい顔が天使のように綻んだ。
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