冬夏恋語り


恋ちゃんと彼女に寄り添う俺を見て、南田夫妻は我々の訪問の意図を感じ取ったようだ。

母親は黙っていたが、父親から、



「こちらの方が、恋雪さんの」


「はい」



どちらもはっきりした言い回しはなく、それとなく物事を了解したといった話し方だ。



「恋雪さんから、弘樹との話は遠慮したいと聞いた時から、そうじゃないかと思っていました。

正直、私たちも寂しい思いですが、恋雪さんの将来を応援させてもらいます」


「ありがとうございます」



恋ちゃんが頭を下げ、俺も続いた。

しかし、何もかもが上手くは進まない。

続いて恋ちゃんが 「指輪をお返したいのですが」 と伝えると、貴之さんの母親の顔が瞬時に強張った。



「指輪はあなたにあげたのだから、あなたの物です。返す必要はありません」


「いえ、お返しします」


「いいえ、受け取れません。何度も言わせないで」


「あの……」



恋ちゃんは言葉につまり、貴之さんの母親は眉を吊り上げて怒りをあらわにしている。

ここが出番とばかりに、俺は膝を進めた。



「恋雪さんは、自分のせいで彼をあんな目にあわせてしまったのではないかと、ずっと思い悩んでいました。

指輪は辛い思い出につながっています。どうか恋雪さんの気持ちを」



俺の話が終わらないうちに、母親が激しい言葉をぶつけてきた。



「あのことに、まだこだわっていたの? 何度も謝ったじゃない。

あのときは私も気が動転していたから、貴之が死んだのはあなたのせいだと言ったけど、 言い過ぎたと思ったから、悪かった、あなたのせいじゃないって、何度も言ったのに。

わかってくれてなかったの?」



母親に詰め寄られ、恋ちゃんは後ずさりしている。

手を伸ばし、つかみかからんばかりの勢いで、ミヤさんがとっさに間に入った。

それでも責める言葉は収まらない。



「恋雪さん、あなた、まだ私を許してないのね。私はね、お詫びに指輪を差し上げたのよ。

これで許してくださいって、そういうつもりだったのに、どうしていまさら返すなんて言うのよ。 

あなた、私を一生許さないつもりでしょう!」



半狂乱で叫ぶ母親を、父親が抑えるように抱きかかえる。

恋ちゃんも、母親の心中を初めて知ったのか、驚きと戸惑いで目を見開いたまま身動きしない。

この人が恋ちゃんにひどいことを言ったのか……

いい加減にしろ! とよほど怒鳴りつけてやろうと思ったが、騒ぎが大きくなるだけだと思い、どうにかこらえた。

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