冬夏恋語り


南田家を出たとき、冬の日は西に大きく傾いていた。

ミヤさんは、これから用があるそうで、「ハルさんとヨネさんには、私から話しておく。また明日」 といつもと変わらぬ顔で伝えると、家の前で待機していたタクシーで帰って行った。

タクシーに乗っていくよう誘われたが、「歩いて帰ります」 と辞退して、ふたりで冬の道を歩きはじめた。

愛華さんが待つ 『麻生漆器店』 まで、徒歩で30分ほど。

冬の夕方は日の入りが早く、歩きはじめてすぐ、あたりは暗くなってきた。

寒そうに手をこすり合わせる恋ちゃんの手をとり、コートのポケットに突っ込んだ。



「愛華さん、やきもきしながら待ってるだろうね」


「愛ちゃんが来なくてよかった。貴之のおかあさんと、絶対やりあってましたね」


「かもね、あの人も熱血だから」


「今度のことだって、私より怒ってたから……これまで、愛ちゃんに心配かけてばっかりだったなぁ」


「それももう終わった」



婚約指輪は、貴之さんの仏前に置いてきた。



「次は、西垣さんの指輪ですね」


「俺の? あぁ、忘れてた」



本当に、言われるまでまったく思い出しもしなかった。



「寒いね、コタツが恋しいよ。俺もやっぱり買おうかな」


「一人用を?」


「うーん……大きい方がいいけど、ひとりにはちょっとなぁ」


「ウチのコタツでよければ、いつでもどうぞ」


「いいの?」


「どうぞ、どうぞ」



西の空に星が光っている。

明日も晴れそうだね、朝は冷えそうだ、コートがいるかな、なんて話をしながら歩いていたら、あっという間に 『麻生漆器店』 についた。

愛華さんに今日の報告をして、涙ぐむ愛華さんを誘って 『小料理屋 なすび』 にくりだした。

おかみさんを相手に、また同じ話を繰り返し、飲んで食べて、帰路についたのは12時すぎ。

「コタツに入っていきます?」 と恋ちゃんに誘われ、「コーヒー一杯で帰るから」 と言って部屋にあがったのに、夜通し語り合い、眠気に襲われコタツに横になったのは夜明け前。

隣りには、やっぱり眠そうな恋ちゃんがいて、コタツの中の足が何度かぶつかった。

ぶつかった足を絡め取り、手を伸ばして恋ちゃんの肩を引き寄せた。

額を合わせ、どちらからともなく唇に触れた。

浅いキスのあと寄り添い、いつのまにか眠りへ誘われた。

二匹のマンチカンがお腹を空かせて俺たちを起こしに来るまで、暖かなコタツで過ごした。



その日の 『恋雪食堂』 が開店したのは昼時のこと。

「コタツに入りながら、お夕飯もどうですか」 と恋ちゃんから魅力的な誘いがあり、即座に 「お願いします」 と返事をした。

それから毎朝、毎夕 『恋雪食堂』 に通っている。

どうせ朝も食べにくるんだから……

という理由で、夕飯から朝飯まで居続けることも増えて、自分の部屋で過ごす時間より、恋ちゃんの部屋にいる方が多いくらいだ。

ミューともども、この部屋の住人になりつつあるこの頃だ。


< 124 / 158 >

この作品をシェア

pagetop