世界で一番好きな人
「暗くなっちゃったね。家まで一緒に行くよ。」


「こっちだよ。」



トコトコと駆け出す女の子の後を、慌てて追う。

いつもの写真屋さんの前を曲がって、アンジュールが見えてくる。
それを通り過ぎて、しばらくしたところに、ひっそりとその家はあった。



「ここ。」


「お父さん、もう帰ってるの?」


「うん。」


「じゃあ、ここでバイバイしよっか。」



そう言うと、女の子は私に手を振った。
その可愛らしさに、思わず胸がきゅっとなる。



「瞳子さん、また会える?」


「うん。また会えるよ。」


「ほんと?」


「きっと会えるよ。」



残業を減らして、今日と同じくらいの時間に公園のそばを通りかかれば、彼女に会える気がした。
そして、そうしたいと思う自分がいた。

初対面なのに、その女の子には何か、惹きつけられるものがあって。



「薫ちゃん、ばいばい!」


「瞳子さん、またね。」



もう一度手を振り合って、女の子が玄関の扉に向かって駆けていく。
その向こうにいるお父さんは、きっと素敵な人なんだろう。

扉が開くと、薫ちゃんの肩をそっと引き寄せる手が、ちらっと見えた。

私は、名残惜しい気持ちを引きずりながら、その家に背を向けて歩き出した。
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