世界で一番好きな人
その日の帰り道、ふと思い出して鞄の中のデジカメを取り出した。

この間の、瑛二さんとの旅行。
その時に撮ったものだ。
今朝、仕事に行く前に写真屋さんに、現像を頼んでおいたんだった。

正直、何だか気が進まない。
でも、通り道に写真屋さんがあるので、私はそこに向かった。
これが、偶然の始まりだなんて思いもしないで―――



「いらっしゃいませ。」


「すみません、今朝現像をお願いした、俵です。」


「あ、はい。少々、お待ちくださいね。」



店主さんは、ちょうどかかってきた電話を片手に、忙しそうに写真を探している。



「あ、これです。どうぞ。」


「どうも。」



お金を払って、現像してもらった写真を受け取る。
そして私は、写真屋さんを後にした。

外は、月が輝いていた。
瑛二さんからの連絡は、あれ以来ない。

本当は、今日の残業なんて切り上げてもよかったんだ。

ふう、と息をつく。

瑛二さんは、悪い意味で私に似ているところがある。
自分の目的のために行動する、そんな人だ。

きっと、私たち二人は。
こんなに綺麗な月夜でも、月のことを話題にすることもなく歩くんだろう。
そんな二人なんだ。

久しぶりに感傷的な気分になってしまった自分が、なんだか可笑しい。
早く結婚の日が来ればいいと思った。
結婚してしまえば、こんな気持ちになることもないんだろう。

私は、早足でひとり、家に帰った。
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