「異世界ファンタジーで15+1のお題」四
002:束縛
(こんな所に道が……!)

しばらく歩いた所で、セスは白い霧が唐突に開けた場所に出くわした。
奇妙に捻じ曲がった枝が両手を伸ばしたその道は薄暗く……セスの脳裏に、子供の頃に読んだ何かの絵本の悪い魔法使いの暮らす森を思い出させた。

ここは危険だ!
セスの本能はそう警告を発していた。



(この先に進んだら…俺は、もう二度と戻って来られないかもしれない…)

本能はさらに強い警告を発し、セスの不安は色濃くなった。
セスの足は道の入口で躊躇い、まるでそこに根が生えたように立ち止まる。



本能の警告に従って引き返せば楽になれる…
だが、その一方で、この先にフォルテュナがいる…そういう確信に似た想いも芽生えていた。
自分のために連れ去られたフォルテュナを見捨てることは出来ない。
その想いは強いのに、怖さと不安に押し潰されそうな心がそれを邪魔する…

セスはその場でじっと目を閉じた。
頭の中に浮かぶのは、フォルテュナの顔…



(そうだ…!
不安なのは俺だけじゃない!
連れ去られたフォルテュナの方がずっと不安なんだ!
あの暗い洞窟だって、二人なら出て来れた。
俺が行けば…フォルテュナと二人ならこんな想いは吹っ飛ぶ筈だ!)



セスの心は決まった。
それ以上、何かを考えてまた気持ちが揺らぐのを恐れ、彼は一歩を踏み出した。
薄暗い森に続く道を噛み締めるように一歩一歩歩き出して行った。

茂みの中から今にも何者かが飛び出して来るのではないかとの恐れを抱きつつも、セスは、それらを見ずにただ真っ直ぐ前だけをみつめて歩く。
気を紛らすため、フォルテュナとの記憶を思い出していた。
初めて会ったあの洞窟のこと、そして、美しい花畑…天に届く高い搭…



(そういえば、あの時のフォルテュナはなんだか様子がおかしかったな…)

そんなことを考えた時、セスはある異変に気が付いた。



(笛の音が…)

あの不気味な笛の音がずっと小さくなっていることにセスは気が付いた。



(そんな…こっちじゃなかったのか!?)

焦る気持ちを押さえながら振り向いたセスの目が大きく見開かれた。
なぜならそこにあったのは、セスが今まで見ていた風景だったのだから。
振り向いた先には、セスがこれまで歩いていた道ではなく、進もうとしていた道の景色があったのだ。
セスが再び後ろを振り向くとそこにはやはりまた同じ景色があった。



(ど…どうなってるんだ!?)

セスの鼓動は早鐘のように脈打っていた。
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