「異世界ファンタジーで15+1のお題」四
無駄だということはわかっていた。
だが、それでも、セスは何度も向きを変え、どこかにこの道から逃れる何かがないかと探し続けた。
時には駆け出し、時には木に登り…
しかし、それは何の意味も持たなかった。
セスがどれほどあがこうとも、元の場所に戻って来る。
もはやどの方向から来たのかさえ、わからなくなっていた。
わかった所で、それが何かの役に立つということはないということは、内心、セスにも予想はついていたのだが…

疲れ果てたセスは、その場に座り込み声をあげて笑った。
笑っているはずのセスの瞳からは、いつの間にか熱い涙が流れ出していた。



(俺はどうやら罠にかかってしまったようだな…)

笛の音という餌におびき出され、罠にかかってしまった愚かな自分に腹を立て、セスは地面を拳で殴りつけた。



(ごめん…ごめんな、フォルテュナ…
あんたを助けに行けなくなったようだ…)

セスの涙は、先程よりも勢いを増していた。
拭っても拭っても、その涙は止まらない…



(いつもこうだ…
俺に力がないばっかりに…
誰を助けることも出来やしない…!!)

十分な治療を受けさせることが出来ずに死なせてしまった母…
粗末な小屋で、貧しい暮らしをする子供達…
そして、フォルテュナ…

様々な表情をしたそれらの人物が、セスの脳裏に浮かんでは消えていく…



(俺は…駄目な人間なんだ!)

セスは言葉にならない声を上げた。
それは、今、自分が置かれた状況への恐怖のためなのか、激しい自己嫌悪のためなのかわからない。
心の中が黒いものに埋め尽されて、たまらなくなったのだ。
セスは、何度も何度も声が枯れるまで叫び続けた。
だが、その声に応じる者は誰もなく、もちろん状況が変わる事もなかった。
潤んだセスの目の前に続くのは、見飽きた一本の道だけ…
セスは忌々しいその道を見つめ続けた。



(そうか……)

しばらくしてセスはゆっくりと立ち上がった。



(俺は、この先には行けるんだ…)

罠にかかったことは間違いないかもしれない。
しかし、自分にはまだ進める場所がある…それに気付いた時、セスの足はまた動き始めた。
誰が何のためにこんなことをしてるのかはわからないが、行ける所まで行ってやろう…!
セスの心の中に、小さな光が宿った。
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