イージーラブじゃ愛せない
「母から聞きました、同居のこと。なんかすみません、新婚の時くらいふたりで気兼ねなく暮らしたいだろうに。どうせ母が急かしたんだろうなって」
ケーキを乗せたお皿をトレーに並べながらそう言うと、涼子さんはこちらに顔を向け柔らかに首を横に振ってみせた。
「とんでもない。私、早く赤ちゃん欲しいから、それなら最初から一緒に暮らした方がいいよねって話になったの。だから、圭太さんとはもちろん、お義父様やお義母様と一緒に住める事、本当に楽しみにしてるのよ」
偽りの無い綺麗な笑顔。その笑顔で涼子さんは私に微笑みかける。
「ふふふ。優しい柴木のお家にお嫁にこれて、私ほんとに幸せ者よね」
――その幸せのせいで、私はこの家から追い出されるんだけどね。
手元のケーキを投げつけてやりたい程、悪意の無い綺麗な笑顔。この人は本当に気付いてないんだ。自分の幸せのせいで傷付く人間がいる事を。
そして、ふと気付く。
あー、この笑顔。どっか既視感があると思ったら。
須藤さんと似てるんだ。
フォークを人数分トレーにセットした私は、「ごゆっくり」と涼子さんに笑顔で頭を下げてから2階へ戻る。
……きっと。
愛され不自由なく育った人の靴はとても底が厚いんだな。誰かの心を踏んづけても気付かないほど、高いヒールで丈夫に出来ている。
そしてその靴を履いて見る景色は、さぞかし美しいに違いない。
涼子さんも須藤さんも。
私の居場所を踏んづけて見る景色は、優しい世界に違いない。