黄昏の特等席
「しかし、彼はわかりやすいからな・・・・・・」
「そうなの?」
「ああ・・・・・・」

 エメラルドが全勝ばかりするので、彼は他の人達にも勝負を挑むようになったらしい。

「その人、よっぽどこういう遊びが好きなのね」
「どうしてそう思う?」

 グレイスがエメラルドを見ると、彼はトランプに視線を落としたまま。

「だって、トランプがあちこち汚れているから」
「なるほど・・・・・・」

 それだけ愛着があることを言うと、エメラルドは複雑そうな顔をする。

「君にもあるのか? 彼のように大切にしているもの」

 大切にしていたものはあったのに、一人の男にどれも壊されてしまった。
 暗い影を落とすグレイスに気づいたエメラルドは両頬を包み、顔を覗き込みながら名前を呼んだ。

「アクア!」
「っ! あ・・・・・・」

 エメラルドの手の感触に気づいたのは名前を強く呼ばれた後だった。
 互いを見つめたまま、グレイスは自分の手を彼の手の上に重ねた。

「ごめん、私・・・・・・」
「大丈夫だ」

 グレイスが言葉を続ける前にエメラルドに抱きしめられた。謝罪を繰り返すと、彼は謝らなくていいことを告げて、抱きしめる力を僅かに強くした。
 こんな風に抱きしめられて、普通なら暴れなくてはならないのに、それができなくなってきている。
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