黄昏の特等席
 いじけているエメラルドを見て、グレイスは彼の肩をトントンと軽く叩く。

「もう生きていけないな・・・・・・」
「嘘ばっかり・・・・・・」
「本当だ」

 グレイスと出会う前のことを思い出して、生きたらいいことを言うと、過去のことは忘れたらしい。
 本当に次から次へと嘘を吐くので、もう呆れてしまう。

「眠いか?」
「いいえ・・・・・・」

 正直なところ、眠った感じがしないので眠い。
 
「私よりアクアが嘘吐きだな」
「そんなことないよ・・・・・・」

 さっきまで遊んでいたときはそれほど睡魔に襲われることはなかったのに、今は眠くて仕方がない。
 眠ってしまいそうなので、目を閉じないように頑張っていると、横でくすくすと彼が笑っている。

「何がおかしいの?」
「眠いのなら、眠ったらどうだ?」
「眠くないよ・・・・・・」

 エメラルドがいなかったら、グレイスは欠伸をしているだろう。
 欠伸も我慢していることにも気づいていて、エメラルドが眠りの世界へ誘うようにグレイスの頭を撫でる。

「ちょっと、眠ってしまうよ・・・・・・」
「問題ないだろ?」
「あるよ」

 数時間後には図書室で仕事をしなくてはならないのだから。

「眠る時間だったら、たくさんある」
「だったら戻る。おやすみなさい」
「・・・・・・おやすみ」

 いつもだったら一緒に部屋に来るエメラルドが来ないことに違和感を感じながら、自分の部屋へ向かう。
 図書室から出る前にエメラルドを見ると、彼は背を向けていた。
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