黄昏の特等席
欲しいもの
 屋敷から店まで距離があり、しばらく歩き続けて、ようやく店に辿り着いた。店内をうろついていると、店員がグレイスに声をかけてきたので、欲しい万年筆について話をした。

「まだ残っていますか?」
「はい」

 欲しい万年筆が残っていることを知り、グレイスは表情を和らげる。

「少々お待ちください」
「わかりました」

 店員は数分もしない間にグレイスが求めている黒い万年筆を持ってきてくれた。

「お待たせいたしました。お客様」

 他の商品を見ていたグレイスはそれを元のところへ置いた。

「わざわざすみません」
「いえ。こちらでよろしいでしょうか?」
「はい。それです」

 エメラルドに贈るので、プレゼント用に綺麗に包むように頼んだ。その後に支払いを済ませ、店員から黒い万年筆を受け取った。

「ありがとうございました」

 店員が頭を下げたので、グレイスも頭を下げてから、店を後にする。
 このまま屋敷に戻ろうと思ったとき、エメラルドも用事でいないことを思い出し、グレイスはもう少し歩き回ることにした。
 せっかく外に出たのだから、このまままっすぐ屋敷に戻るより、店の中を見て回ることを優先する。
 まずはどの店に入ろうか歩きながら考えていると、フルーツジュースを売っている店が目に留まった。寒くて仕方がないのに、フルーツジュース専門店で多くの客が並んでいる。
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