黄昏の特等席
 今日は特に寒いのに、こんなに列ができているのなら、夏になったらその倍になっていそうだ。そう思いながら、他の店まで移動する。

「こちらはいかがでしょう?」

 グレイスが傘を見ていると、反対方向から女性店員の声を耳で拾った。
 その店員はグレイスと同じ年齢くらいの少女に灰色のニット帽を勧めている。彼女は両腕を組んで悩んでいる。

「もう少し他のものを見てから、考えます」
「どうぞごゆっくり」

 彼女は店員にニット帽を渡して、少女は別の場所へ移動した。
 何気にアクセサリーのところをうろついて値段を見てみると、予想以上に高いものだったので、すぐに店を出て、またしばらく歩き続ける。

「いかがでしょうか?」
「はい?」

 ちょうど紅茶を売られている店に来ていて、女性店員が試飲の紅茶を渡してきた。

「あの・・・・・・これは何の紅茶ですか?」
「まろやかなマンゴーティーです!」
「やっぱり・・・・・・」

 紅茶の香りでわかっていたので、あまり驚かなかった。
 マンゴーを使った紅茶はグレイスが嫌いな飲み物で、受け取ってしまった以上飲まなくては失礼だ。

「・・・・・・ご馳走様でした」

 やっぱり口に合わず、顔を顰めてしまったものの、それに彼女は気づかなかった。
 早足でその場から遠ざかりながら、マンゴージュースだったら、飲むことができることを考え続ける。

「そろそろ帰ろうかな?」

 特に欲しいものが見当たらず、飲食店で何かを食べる気になれないので、帰ることにした。
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