黄昏の特等席
「私は一人で部屋に戻るから」
「アクア、違う。そうじゃない」

 エメラルドは手を伸ばして、グレイスの背中についていた糸屑を取ろうとしていただけだった。
 誤解をして出た言葉をどうすることもできず、彼が何かを発する前に挨拶をしてから、急いで部屋まで逃げた。

「どうしてあんなことを言っちゃったのだろう?」
「私に部屋に来てほしいからだろ? だけど、素直に言うことができずにいる」

 おかしなことが起こっている。グレイスの部屋には自分だけなのに、別の声が聞こえている。
 ベッドにうつ伏せで寝転んだまま、恐る恐る顔を上げると、ドアに背中をくっつけて立っているエメラルドが軽く手を振った。
 驚きのあまり、声すら上げることができず、飛び起きた。

「ど、ど、ど・・・・・・」
「言葉になっていないな」
「どうして・・・・・・」

 グレイスの願いを叶えに来たことを言われ、すぐにそれを否定した。

「さっき私が怖いものを言ったはずだ」
「どうせ嘘でしょ?」
「嘘だったら、大人しく部屋に戻るさ。それに自分の部屋は寒いから、ここで寝かせてもらいたいな」

 部屋の奥に進んでくるエメラルドを無理矢理部屋から追い出し、毛布を彼に被せてドアを閉めた。
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