黄昏の特等席
「アクアは酷いな・・・・・・」
「私の何が酷いの?」

 図書室へ行くと、エメラルドが開口一番に言い放った。

「何も酷いことなんてしていないよ」
「私はただ、アクアの願いを叶えようとしただけなのに・・・・・・」

 昨夜のことを根に持っているエメラルドはグレイスに文句を言っている。

「私が快く部屋に入れるとでも?」
「そうしてほしかったな・・・・・・」

 それなのにグレイスが彼にしたことは毛布を渡しただけ。

「あの毛布、私がいつも使っているものだよ」
「手触りが良い上に、君の香りを堪能させてもらった」
「なっ!」

 毛布を返してほしいことを頼むと、自分の部屋にあることを言った。

「さっさと返して」
「気に入っていたのに・・・・・・」
「あれは私のものだから」

 決して彼にプレゼントしたのではない。エメラルドが寒さに震えているから、貸しただけのこと。
 
「今日はいつもより早い時間にここに来たな」
「そりゃあね・・・・・・」

 誰かさんが毛布を持って行ったから、寒くて早起きしたことを言うと、エメラルドはグレイスの手を掴んだ。

「な、何!?」
「冷たいな・・・・・・」

 指先で手の甲を撫でられたので、グレイスは彼から離れて、壁まで向かった。
 あんな風に撫でられることに慣れないので、思わず逃げてしまった。
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