六本木グラスホッパー
二番目の話。


唯浜メイは、群れをなさない。



誰ともつるむことなく、常に一人でいる。


いつも、シンプルだけれど他の子供達と比べれば小奇麗な格好をしていて、物静かそうに見えるけれどなかなか端正な顔立ちで、肩までのその細くて色素の薄い髪の毛は、太陽の光を浴びるとキラキラと光った。


けれど、彼女は笑わない。
笑ったところを見た事がないし、ボクは彼女と喋ったことが無いから、彼女の声も知らなかった。


他の生徒達の両親は、唯浜メイはマフィアの娘だから、仲良くしちゃダメよ。と子供達に念を押した。だからみんな彼女には近づかなかったし、彼女もまた、みんなに歩み寄ろうとはしなかった。


「昨日から、唯浜メイさんがご自宅に帰っていないそうです。みなさん、何か心あたりはありませんか?昨日唯浜さんと一緒に遊んだ人はいませんか?」


朝のチャイムが鳴ってホームルームが始まると、先生はボクたちにそう言った。
先生の顔は、どこか心なしか怯えているような気がした。
窓際の一番隅の、唯浜メイの席を振り返った。そこには誰も座っていなかった。教室がざわつき、隣同士の席のボクとアラタは顔を見合わせた。


「先生、唯浜さんと一緒に遊ぶ子なんて、この学校にはいないと思います」


女子の一人が言った。その通りだと、他のクラスメイトたちも頷いた。


唯浜メイが失踪したという話は、あっという間に学校中に広がった。
彼女は、人と交流を持たないが、学校の中では有名人だ。休み時間は、どの教室でもその話題で持ちきりだったと思う。


「マフィアの抗争にでも巻き込まれたんじゃないの?」


「唯浜会と対立してるマフィアに誘拐されたのかも」


「案外、この街に嫌気がさして出て行ったんじゃないのか?」


みんなは口々に自分の意見を考察を述べ合った。
ボクとアラタは、それを教室の隅で聞いていた。
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