不良リーダーの懸命なる愛

後悔

理人はヤスに殴られた直後、階段をのぼり、最上階の屋上へ向かっていた。



しかし、途中で歩くスピードが遅くなると、完全に止まってしまい、
壁にもたれて立ち尽くしていた。



どこか焦点が合わない理人の表情は、疲労からなのか、虚しさからなのか……。




理人はおもむろにヤスに殴られた左頬を触る。



「痛ぇな……………。」



ポツリと呟いた声は酷くもろかった。


痛みは、殴られた痛みなのか、それとも心の痛みなのか……。



どちらにせよ、彼にとってかなりのダメージになっていた。



一人になったことで張り詰めた緊張が解けたのか、
つい本音をこぼしてしまった……。


「言えねぇよ……………、 “嫌い” だなんてさ………。」


グッと拳を握った手は、悔しさで震えていた。


「アレが俺の限界だっだな………………。もっとハッキリと言っちまえば、確実にお前を護れたのにな…………。」


歯を食いしばり、理人は何かを必死に耐えていた。


「最低ダナ、俺は………。これじゃ恨まれても仕方ねぇよな………………。手離すしかなかったんだよ……。お前を護るためにはさ……。」



そう自嘲ぎみに吐き捨てるように言うと、
頭を抑え、クシャっと髪の毛を握った……。




「ごめんな、…………………咲希ッ!!」




後悔はしない!




何度もそう誓ったのに……。



理人は自分のしてしまった罪の重さを必死に耐え忍んでいた!





その時、理人はある人の言葉を思い出していた……。






『いざという時に大切な人を護れるヤツ。そういうヤツが本物の強さを持ってるんだ。君はそういう面ではまだまだ半人前だな。』



『なにも、地位や名誉がある人間が偉いんじゃない。人の器は、学歴じゃ測れないんだよ。青少年くん?』






理人が中学生の時。


彼が道から大きくはずれていた時だった。


“ある人” が理人に残した言葉の数々。


それは、今も理人の指針になっていた。



「俺は……、結局大切な人を護れたのかよ………?答えてくれよ……!!」


理人の必死の問いには、誰もいないその場所からは答えが返ってくることは無かった。


ズルズルと壁にもられたまま下がってしまい、やがて座り込んでしまった。


「チクショー………。他にどうすればよかったんだよ……!」


辛いのは理人も同じだった…。


「一番大切なモンを護るためにしたことなのに…………、一番大切なモンを傷つけちまった………………!!」


その時、理人から一粒。



涙が溢れた。




「俺はどうしたらよかったんだよ…………!?教えてくれよッ!!」




理人にとって実母を亡くして以来、

12年ぶりの涙だった………。
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