不良リーダーの懸命なる愛

テスト

7月に入り、季節は夏に向かっていた。




いよいよ試験週間に入り、休み時間はいつもは騒がしい教室が今日はやけに静かで、
周りを見渡すと生徒たちは皆、教科書や参考書を開いて勉強していた。




「最初は生物か!あたしすっごい苦手なんだよなぁ~。けっこう暗記モノ多いじゃん?はぁー、憂鬱。」


と、ちーちゃんが頭を抱えていた。


「でもここの図式は必ず出るって言ってたね。」


「え!?ドコ!!?なんで唯ちゃん知ってんの?!!」


「千枝ちゃん、授業で先生が言ってたよ…。」


「マズイ!あのおじいちゃんを甘く見てたよ!!この10分間で全力で暗記しなきゃっ!!!」


するとちーちゃんは自分の席へと戻っていった。


ちーちゃん…。


先生をおじいちゃんって…………。


「咲希ちゃんは生物得意だよね?いいな、羨ましいよ。」


「う~ん……でも今回はどうかな……。」


「咲希ちゃん?どうかしたの?顔色あんまり良くないよ……?!」


「え…?!そ、そうかな?ちょっと夜中まで勉強してたせいかも!あはは。」


「そっか。あんまり無理しないようにね…………って、あ!!見て見て!霧島くんだ!」


「…!!」



唯ちゃんが指し示すほうへ視線を向けると、廊下を歩く霧島くんの姿が目に映り、私達のクラスの前を通っていく……。



「鞄持ってるってことは今来たところなのかな?!けっこう余裕あるんだね、霧島くんって。教科は何が得意なんだろ?咲希ちゃん知ってる?」


「…………。」


「咲希ちゃん?」


「……え?あ、ご、ごめんね!なに?」


「あ!ううん!勉強に集中してたよね!?ごめんね!!気にしないで続けて!」


「ご、ごめん…。あの、私もちーちゃんと同じで、ここの図式を暗記し忘れててさ!あはは。」



私は笑ってその場をやり過ごしていた。
いま霧島くんの話をされるのは正直辛すぎる……。


実を言うと、三日前のあの中庭での失恋事件はまだ二人には話していない。


唯ちゃんには、“霧島くんが急にバイトが入っちゃって、結局会えなかった” ということになっている。


二人に言えない理由は、テスト前に言うのは気が引けること。



それともう一つ。



私自身がまだあの出来事を受けとめきれていないという事実。


霧島くんが去った後、私はしばらくその場から動けなかった……。


言われてショックというのもあるけど、それだけじゃなくて、


もしかしたら、いつものように霧島くんは私をからかっているだけで、


そのうち霧島くんが戻ってくるかもしれない!!



悪い冗談でも良い!



それでも私は嫌いになんかならないよ?


そう思って待ってた。


そんな儚い期待を抱いていた………。




でも彼は、結局戻ってこなかった。




それがどんなに悲しく、切なかったか……。


最初は本気じゃないと思ってた!


私と縁を切りたいなんて唐突すぎるし、一晩で人がこんなにも変わるわけ無い!


そう思ってそれは霧島くんにも直接質問した。





『霧島くん……本当にそんなこと思ってるの?』



その時、ほんの一瞬だけ霧島くんが動揺したように私は見えた。


だから!


これは彼の本心じゃない!!


違うんだ!




そう信じた!




でも!!



『好きじゃねぇよ。べつに。』


『もういいだろ。』





その後の、私を突き離した彼の声は、
痛いほど冷たく、酷だった……。


人生で初めて好きになった人に、失恋どころか決別されて、平気なわけがなかった。


これで私と霧島くんの繋がりは、もう無い。



夢だと思いたかったのに、霧島くんに別れを告げられたその夜は、私は一睡もできなかった……。


涙は枯れ果て、目はかなり腫れてしまい、そんな自分を鏡で見たときはなんか滑稽で笑えて、そして無性に情けなくもなった……。



それでも、霧島くんとの楽しかった日々を思い出してしまうと、
枯れたはずの涙はまた私の頬を伝い、流れていった……。



思い出が真実なのか、嘘なのか。



それすらも今の私にはわからなくなってしまっていたのだ……。






「あ!あと3分で先生が来ちゃう!じゃあ私も戻るね!テスト、頑張ろうね!」


そう言ってくれた唯ちゃんの笑顔は、
今の私には眩しく、そしてなぜか苦しかった…。
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